スクワットで「お尻を引いて」「股関節から曲げて」と言われても、股関節がどこにあり、何が動いているのか分かりにくい方は少なくありません。
先に結論をお伝えすると、股関節は脚の外側ではなく、骨盤と太ももの骨がつながる脚の付け根の深い位置にあります。そしてスクワットは、股関節だけを動かす運動ではありません。股関節・膝・足首が協力して、体を下げ、もう一度立ち上がる動作です。
この記事では、30代以降の女性を中心とした運動初心者に向けて、股関節の場所と動きを日常動作に置き換えながら説明します。痛みの原因を診断したり、全員に同じフォームを当てはめたりするものではありません。
この記事の要点
- 股関節は、骨盤のくぼみに太ももの骨の先端がはまる関節
- スクワットでは、股関節・膝・足首を一緒に曲げ、立つときに股関節と膝を伸ばす
- 深さや足幅をそろえるより、足裏を保ち、無理のない範囲を丁寧に動く
- 強い痛みや普段と違う体調変化があれば中止する
股関節は骨盤と太ももの骨のつなぎ目
脚の付け根の奥にある「球関節」
股関節は、大腿骨(太ももの骨)の丸い先端である大腿骨頭と、骨盤側のくぼみである寛骨臼でつくられます。球状の骨頭が受け皿にはまる「球関節」で、前後・左右・回旋など複数の方向へ動ける一方、立つ、歩くといった場面で体重を支える安定性も備えています(参考資料1)。
脚を持ち上げたときにできる鼠径部付近の折れ目を目安にすると、場所を想像しやすくなります。ただし関節そのものは深い位置にあるため、外から骨頭を直接触れるわけではありません。「お尻の外側を押した場所が、そのまま股関節」とは限らない点を覚えておきましょう。
曲げる・伸ばす・外へ動かすを日常動作で考える
解剖学では、関節の角度が小さくなる方向を「屈曲」、伸びる方向を「伸展」と呼びます。股関節では、太ももを前へ持ち上げる動きが屈曲、曲げた位置から立位へ戻る動きや脚を後ろへ運ぶ動きが伸展です(参考資料2)。
- 屈曲:椅子へ座る、階段で脚を持ち上げる
- 伸展:椅子から立つ、歩行で後ろ脚を送る
- 外転・内転:脚を横へ開く、中央へ戻す
- 外旋・内旋:太ももの骨が外向き・内向きに回る

実際の日常動作では、股関節だけが単独で動くわけではありません。骨盤や体幹、膝、足首も一緒に動きます。見た目だけで「股関節が硬い」「骨盤がずれている」と断定せず、どの場面で動きにくさや痛みを感じるのかを分けて考えることが大切です。
スクワットでは股関節と膝が協力する
下がるときは曲がり、立つときは伸びる
スクワットで体を下げるときは、股関節と膝が曲がり、足首ではすねが足の甲へ近づく方向に動きます。立ち上がるときは、主に股関節と膝を伸ばす方向へ力を出します。スクワットの研究でも、足首・膝・股関節・脊柱を含めた複数の関節の動きをまとめて考える必要があるとされています(参考資料3)。
つまり「股関節を使う」は、「膝を動かさない」という意味ではありません。お尻を少し後ろへ運びながら、膝も曲げ、足裏の接地を保って体全体を下げるのが基本です。椅子へ静かに座り、また立つ動作を思い浮かべると分かりやすいでしょう。
「膝をつま先より前に出さない」は絶対条件ではない
膝がつま先より前へ出るかどうかは、しゃがむ深さだけでなく、脚や足の長さ、足首の動き、体幹の角度にも左右されます。
トレーニング経験のある男性7人を対象にした小規模研究では、板を置いて膝の前方移動を強く制限すると、膝のトルクは低下した一方、股関節のトルクと体幹前傾が増えました(参考資料4)。対象や条件が限られた研究なので、これだけで全員の安全なフォームを決めることはできません。ただ、「膝だけを固定すればよい」と考えず、股関節・膝・体幹のバランスを見る必要があることは分かります。
足幅とつま先の角度にも一つの正解はない
初心者と経験者計42人が複数の足幅・つま先角度でスクワットを行った研究では、条件によって股関節や膝の動き、関節にかかるモーメントが変わりました(参考資料5)。したがって「肩幅ぴったり」「つま先は必ず正面」のように形だけを統一するのは適切とは限りません。
30代以降の女性も、年齢や性別だけで足幅を決めず、まずは立ちやすい幅を選び、つま先を自然な方向へ向けます。膝はおおむねつま先と同じ方向に動かし、足裏が大きく浮かない範囲で試しましょう。
初心者がフォームを確認する4つの手順
1.体調を確認し、支えを用意する
周囲に物がない平らな場所を選びます。不安がある場合は、動かない椅子や手すりの近くで行いましょう。体調が普段と違う日や、医師から運動を制限されている場合は、無理に始めません。
日本整形外科学会のロコトレでも、支えが必要なら机へ手をつき、スクワットが難しい場合は椅子からの立ち座りへ替える方法が示されています(参考資料9)。同資料はロコモ対策向けなので、ここでは初心者が難度を下げる例として扱います。
2.椅子へ座るようにゆっくり下がる
椅子を後ろに置き、足を立ちやすい幅にします。お尻を少し後ろへ運びながら、股関節と膝を一緒に曲げます。勢いよく座らず、座面へ軽く触れられる高さまでを目安にします。深くしゃがむことより、途中で止まれる速さを優先してください。
3.足裏・膝・呼吸を一つずつ見る
一度に多くの合図を意識すると、かえって動きにくくなります。まず足裏が床から大きく離れないか、次に膝が急に内側へ入らないか、最後に息を止め続けていないかを確認します。鏡や横からの動画は参考になりますが、一回の見た目だけで良し悪しを断定しないようにしましょう。
4.深さか回数のどちらか一つだけを増やす
椅子の高さで安定して動けたら、少しだけ深くする、または回数を少し増やすなど、変更は一つずつにします。深さ・回数・重さを同時に増やす必要はありません。
厚生労働省は成人に筋力トレーニングを週2〜3日勧めていますが、個人差に応じて強度や量を調整し、可能なものから始めることも明記しています。スクワットだけを毎日行うという意味ではなく、休息を含めて続けられる計画にしましょう(参考資料6)。
痛みや違和感があるときはフォームだけで解決しない
運動中に関節や筋肉の強い痛み、胸痛、動悸、めまい、普段と違う強い疲れなどが出た場合は、直ちに運動を中止することが厚生労働省から案内されています(参考資料7)。
脚の付け根の痛み、立ち上がりや歩き始めの痛みが続く場合も、「股関節が硬いだけ」と自己判断して深くしゃがみ続けないでください。日本整形外科学会の一般向け情報でも、このような症状は股関節の病気でみられる場合があると説明されています(参考資料8)。記事だけで原因は判定できないため、続く痛みや夜間の痛み、日常生活への支障がある場合は整形外科などへ相談しましょう。
よくある質問
股関節はお尻の横にありますか?
股関節は骨盤と太ももの骨がつながる、脚の付け根の深い位置にあります。お尻の横に触れる出っ張りは大腿骨の一部ですが、関節そのものではありません。
スクワットは深いほど効果的ですか?
深さが増えると動く範囲や負荷の配分は変わりますが、深ければ全員に良いとは限りません。目的、体力、関節の動き、経験に合わせ、姿勢を制御できる範囲を選びましょう。
膝がつま先より前に出たら、すぐ直すべきですか?
前へ出たことだけで誤りとは判断できません。足裏が保てるか、膝とつま先がおおむね同じ方向か、強い痛みがないかを合わせて確認します。不安があれば、トレーナーなどに全身の動きを見てもらいましょう。
お尻に効いている感じがなければ、股関節を使えていませんか?
筋肉の感覚だけで関節の動きを判定することはできません。まずは椅子を使い、ゆっくり座って立てるかを確認しましょう。左右差や動きにくさに痛みが伴う場合は、無理に反復しないでください。
何回行えばよいですか?
全員共通の回数はありません。最初はフォームを保ち、余裕を残して終えられる範囲から始めます。持病、治療歴、妊娠・産後など個別の事情がある場合は、医師や運動指導の専門家へ確認してください。
まとめ|股関節だけでなく、全身の協力を見る
股関節は、骨盤と太ももの骨をつなぐ脚の付け根の関節です。スクワットでは、下がるときに股関節・膝・足首が協力し、立つときに股関節と膝を伸ばします。
初心者は、深さや回数を競う必要はありません。椅子を目印にして、立ちやすい足幅、足裏の接地、膝の方向、無理のない深さを一つずつ確認しましょう。自分では分かりにくい動きや痛みがある場合は、無理に正解を探さず、専門家へ相談することも選択肢です。
筋力トレーニングと有酸素運動の組み合わせは筋トレと有酸素運動の記事、運動の始め方は30代・40代女性向け初心者記事も参考にしてください。身体の仕組みに関する関連記事は肩甲骨の動きの基本とからだのしくみ・トレーニング一覧で確認できます。
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根拠資料
- OpenStax, Anatomy and Physiology 2e, §9.6:股関節は大腿骨頭と寛骨臼からなる多軸性球関節。股関節の解剖
- OpenStax, §9.5:屈曲・伸展、内外転、回旋の定義。関節運動
- Schoenfeld BJ. 2010:スクワットを足首・膝・股関節・脊柱の複合運動として整理した査読レビュー。PubMed
- Fry AC, et al. 2003:膝前方移動の制限による膝・股関節トルク配分の変化。対象は経験男性7人のため一般化に注意。PubMed
- Lorenzetti S, et al. 2018:初心者21人・経験者21人で、足幅とつま先角度により股関節・膝の運動とモーメントが変化。査読済み全文
- 厚生労働省「身体活動・運動ガイド2023」成人版:個人差に合わせた調整、筋トレ週2〜3日。公式ページ
- 厚生労働省系e-ヘルスネット:強い関節・筋肉痛、胸痛、めまい等があれば運動を中止。安全に行うためのポイント
- 日本整形外科学会:脚の付け根、立ち上がり・歩き始めの痛み等の一般向け説明。症状だけでの診断には使用しない。変形性股関節症
- 日本整形外科学会公式ロコモサイト:机の支持、椅子からの立ち座り、ゆっくり動く方法。ロコトレ
関節モーメントは力学的要求を表す指標で、痛みや将来の傷害率そのものではありません。「女性は必ず広い足幅」「深いほどお尻に効く」「膝がつま先を越えたら危険」といった断定は避けています。

